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しばらくぶりですが、近況の報告でございます。

去る2月12日に抗がん剤治療の効果をチェックする2回目の定期診察がありました。17日の診察報告によりますと、腫瘍マーカー値が上がっており肺癌の進行がみられたとのことです。これは抗がん剤の副作用の苦しみに耐えてきた日々を思うと、かなりのショックだったようです。

そんな気持ちのなか、2月19日に来日中の故エルビン・ジョーンズ(Ds)ジャズマシーンで同朋だったパット・ラ・バーベラ(Sax)からピットインライブへのお誘いを受け、パットさんの温かい励ましもありエルビン時代の定番曲であったジョージ・アンド・ミーなど2曲を演奏しました。同朋の励ましにより演奏後は顔色も明るくなり、萎えていた気力も少し取り戻したようです。

23日にはピットインでの日野皓正(Tp)ライブにお邪魔をし、日野さんの呼びかけによりブラック・オルフェを演奏しました。音楽のチカラは不思議なもので、演奏後は気分も相当に明るくなっていたようです。本人も無意識のうちにそのチカラの恩恵にあずかったようで、実際に実感として音楽のチカラの不思議さ、凄さを語っておりました。

2月には旧知の間柄である片岡マミ(Vo)からかねてよりレコーディングの相談を受けていたものの、スケジュールの折り合いがつかず延び延びになっていたものがここに来てようやく成就、2月2日、3日の2日間にかけて収録しました。金澤英明(B)、高橋 徹(Ds)、岡 淳(Sax)と気心知れた後輩たちのサポートもあり無事に録り終えました。この週は抗がん剤治療と収録との巡り合わせが悪く、収録当日は相当に辛かったようです。しかし、いざピアノと向き合うとスイッチが入りその様は流石でした。しかしながら廻りがいくら流石と絶賛しても、当の本人は何をどのように演奏したのか、ほぼ記憶に残っていなかったようです。ピアニストとしての本能的な演奏力としか言いようのない演奏にも関わらず、ピアノを離れると、仕事を受けるに値するレベルだったのかどうか不安を覚えたのだと思います。収録後にプレイバックを一部分聴いたところでようやく安心したようです。後日に改めて全テイク聴き直してみると本人も納得できる演奏でしたとのこと、改めて流石です。長年の片岡マミさんの夢だった、その夢が叶ってとてもほのぼのとしたアルバムになりそうです。

昨年の9月にお茶の水ナルで行われた辛島文雄復帰ライブに駆けつけてくれた後輩の五十嵐一生(Tp)から、辛島さんとのDUOを収録し、すこしでもお役に立つことができればとの申し出をいただき、彼のセルフプロデュースによる収録を2月11日に済ませました。澄みきった世界を連想させるような素晴らしいできばえです。若い頃から辛島さんの背中を見て学ぶことが多かったと真摯な思いを聞かされ、辛島も心が動いたようです。共演する機会があまり多くなかったとはいえ、後輩に慕われるのも人徳かもしれません。スタンダードを中心に、五十嵐ワールドに添うピアノワークも素晴らしく、とても上質なアルバムに仕上がっています。
この2つのアルバムは近い内に発売される予定です。

それからもう一つレコーディングの報告です。昨年暮れに、高橋信之介(Ds)が長いニューヨーク生活から帰国し、辛島のピットインライブに挨拶を兼ねて現れました。その席で長い付き合いにもかかわらず、彼を起用した作品を残す機会に恵まれなかった話しにも及びました。彼からその残念極まりない気持ちを聞かされると、辛島も思うところがあり、この機にリーダー・アルバムを作る決心をしたようです。池田 篤(Sax)、岡崎好朗(Tp)、岡崎正典(Sax)、楠井五月(B)、井上陽介(B)の気心のしれたメンバーに協力を仰ぎ、ゲストに日野皓正(Tp)、渡辺香津美(Gtr)の両氏に参加していただきました。2月25日、3月1日、2日、11日の4日間にわたる収録でした。渾身の出来だと思います。
こちらも近いうちにリリースを予定しています。

3月に入るとこれまでお世話になった豊田市のキーボードや、発病後にキャンセルをせざる得なかった四日市のサラーム、名古屋のラブリーにおいて励ましのGET WELL !! ツアーを4日から8日の日程で組んでいただきました。池田 篤(Sax)、島田 剛(B)、倉田大輔(Ds)のメンバーで廻り、多くの方に来ていただき感謝です。ツアーは何かと一人では大変なので奥様も同行しております。旅帰りの9日には吉祥寺にあるサムタイムで恒例のバーズディー・ライブを開いていただき、68才の誕生日は喜びもひとしおだったようです。ラブリーの河合勝彦さま、キーボードの小澤伸一さま、サラームの熊倉正夫さま、サムタイムの宇根裕子さま、有り難うございます。

12日にはJasmine(Vo)のJust in Time Tribute to Takehisa Tanaka witn Fumio Karashima CD発売記念ライブで大阪のロイヤルホースへ出演しました。この日は大阪の名ピアニスト故田中武久さんを偲んでおこなわれたものであり、Jasmineの心のこもった歌心に寄り添う辛島の伴奏は、ひときわ美しく、多くの聴くものを惹きつけて止みませんでした。共演者の近 秀樹(Pf)、神田芳郎(B)さん有り難うございます。そして、昨年に物故されたロイヤルホースのオーナー故関 基久さんに合掌。

3月14日は新宿ピットインで本田珠也(Ds)を交えたスペシャル・セッションでした。池田 篤(Sax)、岡崎好朗(Tp)、楠井五月(B)のメンバーです。本田珠也の辛島に寄せるリスペクトに感謝です。これはあまり知られざることですが、本田珠也が辛島の元に来ることになったのは、1991年に博多で山下洋輔(Pf)、本田竹広(Pf)、辛島文雄(Pf)の3人によるコンサートがあり、その打ち上げの席で珠也のお父さんの故本田竹広さんから珠也のことを頼まれたことに端を発しています。珠也弱冠二十歳、それから十年近くにわたって否が応でもエルビン・ジョーンズ(Ds)のジャズスピリッツを実践することになり、ジャズを深め知る道しるべになったようです。ある意味、本田珠也にとって辛島文雄はジャズのもう1人の師匠のような存在かも知れません。

このところのハードワークは常人でも大変だったと思うところですが、皆さまの協力により無事に乗り越えることができました。やはりピアノを弾くと体力的にも精神的にも免疫力が上がるようです。それは端から見ていても実感するのですが、医学的にそうなのかどうかは何ともいえません。ただ油断は禁物と思う次第です。

医師の厳しい見立てよりも現実的には本人の頑張りが勝っておりますが、抗がん剤治療の合間合間に設けられた一週間のお休みの間ですら原因不明の高熱に見舞われるなど、体調も必ずしも一定でないことは事実です。

幸いにも、3月31日に次クールの抗がん剤を始めるにあたって3回目の精密検査を受けたところ、癌の進行は見られないとの事でした。本人も気持ちが明るくなっています。我々スタッフにとっても大変に喜ばしいことです。

4月21日から地元の九州へ一週間ツアーへ出かけます。その後は、恒例の新宿ピットイン・ゴールデンウィークにおける4月30日、5月1日の2ディズ、東北、北陸ツアー、片岡マミさん、五十嵐一生さんのCD発売ライブが予定されています。頑張って欲しいものです。
(一部敬称略)

2016年4月5日現在
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